代表理事
木島タローよりご挨拶
在日アメリカ海軍契約ゴスペルミュージシャン。米ゴスペルシーンのヒットメーカー(MD Stokes)から3年間ゴスペルの手ほどきをうけ、20年にわたり在日米軍基地のいわゆる黒人教会での演奏、指揮を続ける。テレビコマーシャルやExileなどを含むメジャーの現場でコーラス指揮やアレンジとして活動の他、プロチーム、Dreamers Union Choir を率いての実績は、TBS番組主題歌などを含め豊富。全国各地で数十回にわたる100名規模のワークショップを行うい、レギュラーでも多くのクラスを指導する。
アメリカ最大規模の国際コンテスト「The John Lennon Songwriting Contest」のゴスペル/インスピレーショナル のカテゴリーで、FINALISTを受賞 (2016 Session II)。
自由の森学園中学/高校卒業、国立音楽大学教育科(リトミック専修)卒業。
東京経済大学ゲスト講師。国連英検A級
米軍基地内のいわゆる黒人教会で、僕は20年にわたってゴスペルの演奏を続けてきました。
そこでは、人々が週に一度の「Worship」、つまり「礼拝」に集まり、「We worship You!! / われわれは礼拝します!!」と高らかに歌います。力強いコーラスが運ぶその言葉の力に心震わされて、僕はその場所に座り続けて来ました。日本の僕らが憧れたあのゴスペルのパワーは、「思っていることを歌う」事から生じるパワーに他なりません。そこに魂がやどり、技術が磨かれます。Worship しないのに、We worship You と歌う日本のゴスペルがなぜアメリカのゴスペルのようなパワーを生み出すことがないのかは明白です。内心で歌詞のキリストを別の存在に置き換えるとか、宗教色を隠して「愛や希望の歌である」などのソフト路線を狙っても、言葉を歌おうとする魂をだますことは不可能ですし、そこにアートは育ち得ません。しかしそのことは、日本のゴスペルビジネスにとって「不都合な真実」であり続けてきました。
思い出話になりますが、僕は、ちょっと変わった山の中の中学/高校で思春期を過ごしました。制服もテストも校歌も校則もなく、宗教や政治思想を教えるでもなく、ただただ生徒が自ら自分のあり方を選ぶ徹底した自由主義の学校です。それでは大混乱におちりかねないティーンエイジャーの集団も、「ともに歌さえ歌えればバラバラにならずに暮らせるはずだ」と、当時存命だった学校の創始者は考えていました。週に必ず二度ある合唱の授業の素材として多く、黒人霊歌がとりあげられていたものです。
僕は今、その先見につくづく感心しています。一人一人がひたすら力いっぱいに叫びあげるそのコーラスは決して上手ではないかもしれませんが、それこそ紛れもなく、まったく違った個性たちを一つにつなげているものでした。それはもしかしたら、日本人が祭りなどの神事に触れる機会がなくなる中で失ったものなのかもしれません。
音大を出た後、最もあの感動に近いものを僕に与えてくれたのがゴスペルミュージックでした。気づけば僕は、ゴスペルの持つ、「それがあればもう1日生きられる」とさえ人に感じさせるコーラスのパワーを追い求めることに人生をかけていました。
この音楽があの日の夢に届くための最後の壁が、全ての宗教や宗教を持たない人とも共に歌える歌となることです。
その私たちの活動は、決してゴスペルと呼ばれてはならないものです。なぜなら、ゴスペルという言葉は日本語では「福音」と訳され、一義的には新約聖書の最初の4セクションのことを指します。
「ゴスペル」は、聖書のメッセージを伝えようとする意図や活動そのものを意味し、キリスト教活動をする人々が大切に育て、その言葉の意味を守り続けているものだからです。
「音楽のイベントやグループをやりたかっただけなのに、ゴスペルイベントと名乗って続けてきたらだんだん牧師さんなどの宗教家の方が入ってきて宗教色になってしまった」、そのような困惑をいくつも聞いてきました。そのような問題はすべて、宗教文化への不理解と不敬に端を発します。
そもそもゴスペルという言葉が現在進行形のキリスト教活動そのものであることへの敬意を忘れた日本という国の悲しい混乱であり、それが20年もの間、日本のゴスペルを停滞させてきました。
この「命のコーラス」という音楽活動を、宗教活動とは明確に分けることに成功しなければ、神事としてのゴスペルも、そうではないクワイアースタイルの音楽も双方が、技術としても市場としても衰退か、良くても停滞をつづけるでしょう。
このコーラスのパワーにかけた孤独な活動の末に今、那須氏、大庭氏を初めとするご経験豊かな先輩方のご賛同を得られたことは、誠に感無量です。
50年後のこの国に、この国だからこそ求めることのできた「すべての人と歌える命のコーラス」の豊かな文化が息づいていることをこころより願って、ご挨拶とさせていただきます。
音楽家
木島タロー
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